大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)2号 判決

原告

飯田六次

佐藤冨美雄

黒川俊雄

鷲見友好

横山靖子

山口三千子

露木公一

三浦利男

右原告ら訴訟代理人弁護士

佐久間哲雄

大川隆司

稲生義隆

杉井巌一

猪俣貞夫

影山秀人

武下人志

増本一彦

陶山圭之輔

木村和夫

三野研太郎

岡村共栄

大倉忠夫

小林将啓

間部俊明

根岸義道

星山輝男

中村宏

飯田伸一

中野直樹

森卓爾

板谷洋

小口克巳

伊藤秀一

鵜飼良昭

久保博道

小野毅

小木和男

小林亮淳

水口洋介

輿石英雄

関一郎

平岩敬一

宮田学

村野光夫

森田明

山下光

西山宏

原告飯田六次訴訟代理人弁護士

鈴木裕文

右稲生義隆訴訟復代理人弁護士

山内忠吉

被告(元神奈川県警本部長)

加藤晶(Y1)

同(元神奈川県警本部長)

中山好雄(Y2)

同(元神奈川県警警備部長)

松崎彬彦(Y3)

同(元神奈川県警警備部長)

吉原丈司(Y4)

山内實(Y5)

久保政利(Y6)

林敬二(Y7)

家吉幸二(Y8)

田北紀元(Y9)

右被告ら訴訟代理人弁護士

新井弘治

八代宏

松本廸男

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  まず、本件訴えが提起されるに至った経緯及びその提起後における訴え変更の有無、その可否等について検討する。

1  請求原因2のうち、(一)ないし(七)、(八)のうち、目黒が、原告ら主張の期間中、公安一課所属の警察官で巡査部長であったこと、同5のうち、東京地方検察庁が被告久保及び同林に対し、電気通信事業法違反について起訴猶予処分にしたこと及び東京第一検察審査会が右両名に対し、右起訴猶予処分は相当でないとの議決をしたこと、同6のうち、原告らが、昭和六二年一一月一一日、本件住民監査請求をしたが、同監査委員は昭和六三年一月ころ、原告らの請求には理由がないとして、その旨の通知をしたことは、当事者間において争いがない。これに加え、〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  緒方靖夫(以下「緒方」という。)は、日本共産党中央委員会幹部委員で国際部長の地位にあり、本件マンション付近の緒方宅において家族と居住していたが、昭和六一年一一月ころ、自宅の電話に雑音が混入するなどしたため、調査したところ、本件マンション付近にある、緒方宅への電話回線の分岐箇所に異物が取り付けられていた。そこで、NTT町田電報電話局に調査を依頼した結果、同月二七日、本件マンション前の電話回線の端子函及び配線盤に盗聴器が取り付けられ、本件マンションにおいてこれを利用して電話盗聴がされていることが判明した。

(二)  そこで、緒方は、東京地方検察庁に対し、昭和六一年一一月二八日、本件盗聴行為について氏名不詳者を被疑者として偽計業務妨害等で告訴・告発したが、これについて被告久保、同林は、電気通信事業法違反で起訴猶予、その余の犯罪及び被疑者については、嫌疑不十分ないし嫌疑なしという理由で不起訴裁定がされた。また、緒方は、東京地方裁判所に対し、昭和六二年八月一〇日、公務員職権濫用罪として付審判請求をし、東京第一検察審査会に対しても、同年九月八日、右不起訴裁定についての審査申立てをした。東京地方裁判所及び東京高等裁判所は、右付審判請求に対する決定及び抗告審決定において、本件盗聴行為が電気通信事業法一〇四条に該当し、しかも、これが継続的若しくは断続的にされ、かつ組織的に行われたと推認されるが、右職権濫用罪には該当しないとして、右請求及び抗告を棄却した。

ところで、その後、東京第一検察審査会は、被告久保、同林及び同田北の電気通信事業法違反についての不起訴は不当であるとの議決をしたが、東京地方検察庁検察官は、同法違反について、再び被告久保及び同林を起訴猶予、同田北を嫌疑不十分とする不起訴処分をした。

(三)  また、緒方は、東京地方裁判所に対し、家族と共に、国、神奈川県、被告久保、同林、同田北及び同家吉を相手に、本件盗聴行為により精神的苦痛を受け、臨時電話設置等の費用及び弁護士費用の損害を受けたとして、国家賠償法等に基づき、その支払いを求める損害賠償請求事件(東京地方裁判所昭和六三年ワ第一二〇六六号、以下「別件民事訴訟」という。)を提起した。東京地方裁判所は、平成六年九月六日、国、神奈川県、被告久保、同林及び同田北について、それぞれその責任を認め、緒方に対して連帯して一一八万六一七五円、その家族に対して五五万円及び三三万円の各支払い等を認める判決を言い渡したが、被告家吉に対する請求は棄却した。

(四)  原告らは、昭和六二年一一月一一日、地方自治法二四二条に基づき本件住民監査請求をしたが、その請求書の内容は、次のとおりである。

(1) 県警本部警備部公安一課所属の田北警部補、家吉警部補、久保巡査部長、目黒巡査部長(昭和六二年五月一五日死亡)及び林巡査らは、警察庁警備局及び県警本部所属の上司たる警察官の指示ないし承認のもとに、東京都町田市玉川学園八丁目一八番二二号所在の緒方宅における電話による通話内容の盗聴を企て、昭和六〇年七月、本件マンションを盗聴のための拠点として賃借した上、本件マンションの電話回線を緒方宅の電話回線と接続する工事をし、本件マンションにテープレコーダ、録音テープ等の盗聴用具のほか、机、布団及び冷蔵庫等の生活用品等を持ち込み、昭和六一年一一月下旬までの間、本件マンションに住み込んで、緒方宅の電話の通話内容を継続的・断続的に録音して盗聴した。

(2) ところで、本件マンションの賃料は一か月当たり四万九〇〇〇円であり、賃貸借契約締結時に敷金、礼金、前家賃、仲介手数料等合計二九万四〇〇〇円が支払われ、その後、賃料として約一六〇万円が支払われており、賃料と電気、ガス、水道料等の光熱費は、東京都民銀行玉川学園支店の口座に直接又は同銀行横浜支店から振り込まれているが、これは県警本部の調査費から支出されていると報じられている。

(3) 電話盗聴行為は、憲法の保障する通信の秘密、思想・信条の自由、言論・表現の自由、政治活動の自由や私生活を不当に他人に探られない自由(プライバシーの権利)等の諸権利を侵害するものであるのみならず、刑法の職権濫用罪、偽計業務妨害罪、電気通信事業法及び有線電気通信法違反にそれぞれ該当する明白な犯罪行為である。このような違法な犯罪行為である電話盗聴行為は警察法に定める警察の職務に違反し、警察官がこれを行うことは許されない。

したがって、神奈川県が右盗聴行為に従事する警察官に給与その他の俸給を支給し、盗聴のための賃料及び光熱費を支出し、また、そのために備品を購入・使用することは、いずれも違法な公金支出ないし財産管理として許されない。

(4) よって、神奈川県は、神奈川県知事、同県公安委員会、並びに当時の県警本部長、同警備部長、同公安一課長及び前記各警察官らに対し、右公金支出ないし財産管理について、損害賠償を請求するとともに、今後の支出を中止することを求める。

(五)  これに対する昭和六三年一月六日付け監査結果は、監査を実施したが、田北警部補らに対して支給された給与を減額すべき事由はなく、違法行為に対する旅費として県費が支出された事実、本件マンションの賃貸借契約に係る敷金、礼金、仲介手数料及び賃料並びに本件マンションの使用に伴う光熱費等に県費が支出された事実は認められないし、監査請求に係る机等が盗聴行為のために購入された物品とは認められず、公安一課に属する物品の出納及び管理は適正にされているから、右損害賠償請求は理由がない、というものであり、この監査結果は、昭和六三年一月七日、原告らに送達された。

(六)  本件訴え提起後の経緯は次のとおりである。

(1) 原告らは、昭和六三年二月五日、本件訴えを提起したが、その訴状の記載内容は、盗聴行為は、犯罪行為であるから、これに従事していた被告田北ら盗聴実行者らは、正規の勤務時間に勤務していないことになり、神奈川県が盗聴実行者らに給与等を支出した行為は違法であり、また、盗聴実行者らは、本件マンションの賃料等及び盗聴用の物品を購入のために神奈川県の公金を違法に支出したから、盗聴実行者らは、犯罪の共同正犯者であって、共同不法行為者として神奈川県の被った損害を返還すべき義務があり、被告加藤ら六名(金田を含む。)の上司たる被告らは、盗聴実行者らの上司としてその指揮監督権限があるのに、犯罪行為を指示・容認し、あるいは監督義務を怠って、神奈川県に右損害を被らせたから、盗聴実行者らと連帯してその賠憤をすべき義務がある、というものである。

(2) これに対して、被告らは、昭和六三年四月一二日付け答弁書において、請求棄却を求めた後、同年四月二五日付けで求釈明書を提出し、原告らの主張について、盗聴実行者らが正規の勤務時間に勤務しなかった日時、盗聴実行者らへの給料等・本件マンションの賃料等・備品購入のための公金の各支出行為者、右賃料等及び備品購入のための公金の歳出予算の科目の各特定、原告ら主張の共同不法行為の被害者、侵害された権利及び侵害行為の特定、被告加藤らの指揮監督権限及び指示・容認の内容及び法的根拠等、同被告らが盗聴実行者らと連帯して損害賠償義務を負う法的根拠のほか、神奈川県が被告らに対して損害賠償を請求し得る実体法上の請求権の内容、各被告が地方自治法二四二条の二第一項四号(以下「四号」という。)のどの類型に該当するかについて、明らかにするよう求めた。

(3) 原告らは、昭和六三年七月四日付け準備書面(二)において、上司たる被告らは、四号前段の「当該職員」(被告松崎、同吉原、同山内、取下前被告金田は諸経費の支払伺いに関する決裁権者として支払負担の可否決定権があり、同加藤及び同中山は会計課長に対し、包括的指揮監督権があるので、会計課長に公金を支出させたことに責任を負う立場にある。)であり、盗聴実行者らは、四号後段の当該職員の「相手方」となり、両者は不真正連帯の責任を負うのであり、被告らの行為は、神奈川県に違法な支出をさせた共同不法行為であると同時に、不当利得返還義務を生じさせるものと構成され、盗聴のための経費は目的外支出であり、地方財政法四条に反すると釈明した。

(4) 被告らは、昭和六三年九月六日付け準備書面(二)において、被告加藤、同中山、同松崎、同吉原、同山内、取下前被告金田については、「当該職員」に該当しないことを理由に、同被告らに対する訴えの却下を求める本案前の申立てをし、被告田北らについての本案前の申立は、原告らの釈明を待ってする旨主張した。

(5) 原告らは、昭和六三年九月二一日付け準備書面(二)において、被告らは、相互に意思を通じて盗聴という犯罪行為を継続的に行うために、盗聴実行者らを正規の勤務から離脱させる一方で、神奈川県から公金を騙取したものであり、被告ら全員が共同不法行為者として神奈川県に対して連帯して損害賠償義務を負うと主張した。

(6) そして、原告らは、昭和六三年一一月一六日付け準備書面(三)において、主張を整理するとして、本件は、詐欺による共同不法行為ないし不当利得の主張であり、上司たる被告らについて「当該職員」に対する請求としたのは撤回する旨主張した。

(7) 被告らは、平成元年一月一八日付け準備書面(四)において、原告らは、会計課長の財務会計上の行為が違法であることを前提に、同課長を欺罔した行為が共同不法行為となるとするが、同課長の財務会計上の違法行為に触れておらず、そこに違法がない以上、その相手方たる被告らに対する請求は、住民訴訟の類型に当たらないとして、本件訴えの却下を求めた。

(8) 原告らは、平成元年五月一〇日付け準備書面(五)において、被告らは、少なくとも四号後段の「怠る事実に係る相手方」に当たる旨主張し(なお、原告らが同年一月二三日の第五回口頭弁論期日において、口頭で右の主張をしたことは被告らの認めるところである。)、以後、右の主張を維持し、最終的には、これだけを主張するに至った。

(9) 被告らは、平成元年一〇月二六日付け準備書面(九)において、四号後段の「当該行為に係る相手方」に対する請求と「怠る事実に係る相手方」に対する請求は、法的構造を異にし、別の請求とみるべきであるから、原告らの右(8)の主張は訴えの変更に当たるところ、出訴期間を徒過していると主張した。

2  右によれば、本件訴状の記載内容は、被告らに対して地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、神奈川県に代位してその損害賠償を請求する趣旨であると解されるが、それが四号前段及び後段のいずれを主張するものであるか判然としない。しかし、原告らは、昭和六三年七月四日付け準備書面(一)において、上司たる被告らは、四号前段の「当該職員」であり、盗聴実行者らは、「その相手方」であるとしているから、本件訴状においてその趣旨を主張していたものと解される。

ところが、原告らは、昭和六三年九月二一日付け準備書面(二)において、被告らは公金を騙取したと主張し、同年一一月一六日付け準備書面(三)において、「当該職員」に対する請求を撤回し、詐欺による共同不法行為等を主張するに至った。

こうした経過からすると、原告らは、それまで、上司たる被告らに対して四号前段の請求、盗聴実行者らに対して四号後段の請求をしていたが、それを上司たる被告らを含めて被告ら全員に対して四号後段の請求に変え、四号前段の請求については取り下げたものというべきである(なお、被告らは、右取下げに特段異議を述べたとは認められないから、右取下げは適法にされたものということになる。)。

ところで、四号による請求は、違法な財務会計上の行為や怠る事実によって地方公共団体に損害が発生又は発生するおそれがある場合に、当該地方公共団体が、その長、職員、第三者に対し、損害賠償請求権等の四号所定の請求権を有し、それを行使すれば、地方公共団体の損害を回復、防止することができるにもかかわらず、それを行使しようとしないときに、地方公共団体の損害の回復、予防のために、住民が地方公共団体に代位して右請求権を訴訟により行使することを認める、いわゆる代位請求訴訟である。

そして、四号は、被告、請求内容を異にする前段の請求と後段の請求とを区分して規定しており、四号前段の請求は、当該行為(違法な公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務負担等)をした「当該職員」(当該訴訟において、その適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者)」又は怠る事実をした「当該職員」を被告とし、その請求内容も、<1>損害賠償請求、又は<2>不当利得返還請求であり、その不当利得返還請求の範囲も、利益が存する限度に限って請求することができる(二四二条の二第一項本文)というものである。

一方、四号後段の請求は、「当該行為に係る相手方(地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務がある者)」又は「怠る事実に係る相手方」を被告とし、その請求内容も、<1>法律関係不存在確認請求、<2>損害賠償請求、<3>不当利得返還請求、<4>原状回復請求、<5>妨害排除請求であって、四号前段とは明らかに異なっている。

四号前段の請求は、当該地方公共団体において、財務会計上の行為をする権限を有する職員が違法な行為をした場合に、その職員の個人責任を追及することで、地方公共団体の損害の回復を図ろうとするものである。それゆえ、「当該職員」とは、当該訴訟において、その適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者ということになる。このように、「当該職員」は、地方公共団体の機関としての立場ではなく、個人としての立場で被告となるのである。

したがって、地方公共団体の職員でない者、職員であっても右のように財務会計上の行為を行う権限を有する地位にない者は、四号前段の請求の被告とはなり得ないのであって、このような「当該職員」に該当しない者を被告とする四号前段の請求の訴えは、地方自治法によって特に認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして不適法である。

これに対して四号後段の請求は、地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務がある者に対して、当該地方公共団体がその請求権を行使しない場合に、その住民がこれに代わって損害の回復・予防をすることを認めるものであり、その方法として、前記<1>ないし<5>の方法が予定されている。

したがって、地方公共団体の職員でない者のほか、職員であっても財務会計上の行為を行う権限を有する地位にない者は、四号前段の請求の被告とはなり得ないが、後段の被告とはなり得る。

このように、前段と後段では、同じく当該地方公共団体の損害の回復予防を目的とするものであっても、その請求の要件、内容が明らかに異なり、訴訟における攻防も異なるから、住民訴訟の類型としては、別個のものと解すべきである。

なお、四号後段の「当該行為に係る相手方」に対する請求は、「当該職員」が行った特定の違法な財務会計行為という作為を問題とするものであるのに対し、同号後段の「怠る事実に係る相手方」に対する請求は、当該執行機関又は職員が、特定の財務会計行為を適切にすべきことが要請されているのに、これを違法にしなかったという不作為を問題にするものであって、これまた、住民訴訟の類型としては、別個のものと解さざるを得ない(後者の請求が、前者の請求における財務会計行為の違法を前提にしない場合は、特にその違いが明らかである。)。

右に述べたところによれば、住民訴訟の請求者は、四号の前段と後段のいずれを選択することもできるし、これを同時に併合して請求することもできると解すべきである。しかしながら、両者は、訴訟類型としては、別個のものであるから、そのいずれか一方を選択した後に、新たに他の一方の訴えを提起する場合には、それぞれの固有の訴訟要件を具備すべきである。

ところで、前記のとおり、本件において、原告らは、当初、被告らのうち、上司たる被告らについては、「当該職員」として、盗聴実行者らについては、「その相手方」として訴えを提起していたから、四号の前段と後段の請求をしていたことになる。しかし、原告らは、その後、被告ら全員について、後段の「その相手方」としての請求だけにしているから、訴えを交換的に変更したものというべきである。

そして、訴えの変更がされた場合は、それが取下げ前の訴えと訴訟物の同一性が認められるとき以外は、特段の事情のない限り、訴え変更時点において、変更後の訴えについて、新たに訴え提起があったものとして、出訴期間等の訴訟要件の有無を検討すべきである。

本件において、右訴えの変更の前後における被告らは同じであるが、その内容は、右のとおり明らかに異なるのみならず、当初の訴え提起時点で、四号の前段と後段のいずれを選択することも、併合して提訴することもできたと解されるから、右訴えの交換的変更がされた時点における出訴期間の遵守を検討しなければならない。

そして、前記認定の経緯によれば、原告らが被告ら全員に対し、四号後段の請求に係る訴え(「当該行為に係る相手方」に対するもの)に訴えを変更した時点では、上司たる被告らに対する訴えについては、本件監査結果が原告らに送達された後、三〇日以内という地方自治法二四二条の二第二項一号に定める出訴期間を過ぎていたことは明らかである。

ところで、前記認定の事実によれば、神奈川県の住民である原告らは、本件について、盗聴行為が組織的な犯罪行為である以上、神奈川県が、盗聴行為の実行者らに対し、既に支払われた給与等、あるいは本件マンションの賃料等について、その支払関係を明らかにした上、その返還を求めるべきであるとして、本件住民監査をし、これに基づき本件訴えを提起したが、その際、被告らに対する代位請求の根拠について、四号前段と後段とを区別することなく、事実関係のみを主張し、被告からの求釈明によりその法的構成を検討した結果、その構成についての誤解や混乱が生じ、上司たる被告らについて、一度は前段に基づく訴えであるとしたものの、被告らの指摘に応じて直ちに右についても、後段に基づくものとして訴えの変更をしたものと認められる。

しかし、本件においては、前記認定のように原告らは、被告らが盗聴行為を実行し、又はこれに加担したとして、被告らに対し、その間の給与等の支払いを受けたのは、不法行為ないし不当利得に当たると主張し、その金員の支払いを求めているもので、結局、原告らの請求の前提ないし基礎となる事実関係には、終始変わりがないと認められること(なお、本件において、不法行為としての事実関係の主張には、不当利得としての事実関係の主張も含まれるとみることが可能である。)からすると、本件においては、出訴期間の点について、四号前段の訴え提起時点で、後段の訴えが提起されたものとみるべき特段の事情があるということができる。

なお、四号後段の訴えのうち、「当該行為に係る相手方」に対する請求を「怠る事実に係る相手方」に対する請求とした点についても、前述の両者の違いからすれば、訴えの変更に当たると解される。しかし、右で述べた理由に加えて、両者は、「相手方」の行為が違法であることを前提に、いわば、積極と消極の両面から、「相手方」に対する請求を行うもので、基礎となる事実関係に違いはないことなどをも考慮すると、出訴期間の点については、前同様に解すべきである。

以上によれば、出訴期間を徒過しているとの被告らの主張は、いずれも理由がない。

二  次に、被告らは、原告らが、神奈川県が被告らに対して有すると主張している、公金の支出により生じた実体上の請求権は「財産」ではないと主張する。しかし、地方公共団体の有する損害賠償請求権は地方公共団体の財産たる債権に当たるから(最高裁判所昭和五七年七月一三日判決・民集三六巻六号九七〇頁参照)、神奈川県が、その有する損害賠償請求権等を行使し得るにもかかわらず、これを行使しない場合は、「財産の管理を怠る事実」に当たると解されるので、被告らの右主張は採用することができない。

更に、被告らは、原告らの主張が、県警本部の会計課長が被告らに対して給与等を支払ったのが、「違法な公金の支出」であるとするならば、神奈川県は被告らに対して、違法な公金支出の相手方として、直接、損害賠償請求権の代位行使をすることができるから、それを代位行使すればよいのに、これを神奈川県の「怠る事実」と構成するのは、訴えの利益を欠くと主張する。しかし、前述のように、四号前段と後段の規定の仕方からすれば、違法な公金の支出に基づいて損害賠償請求権が成立することと、この請求権を行使しないことが「怠る行為」となるということは、法的に両立可能なことがらであり、それゆえいずれを代位行使するかの選択も、訴え提起者に任されていると解すべきであるから、右の主張も理由がない。

また、被告らは、本件訴えは、その主張する不法行為等について、請求原因が特定されていないから、不適法であると主張するが、前記原告らの請求原因がそれ自体として特定されていないとまではいえないから(なお、この点については、後記判断のとおり)、理由がない。

三  そこで、本案について判断すべきところ、まず、被告らが、本件盗聴行為について、それぞれいかなる関与等をしたかを検討する。

請求原因2のうち、(一)ないし(七)、(八)のうち、目黒が、原告ら主張の期間中、公安一課所属の警察官で巡査部長であったこと及び同人がその後、死亡したこと、同4のうち、(一)(1)記載の「神奈川県の職員の給与に関する条例」、「職員の勤務時間、休暇等に関する条例」、「職員の勤務時間、休暇等に関する規則」及び神奈川県警察処務規程が存在すること及びその内容、「勤務の時間、休暇等の運用について」及び「神奈川県警察外勤警察運営規程」の存在と内容、(一)(2)記載の被告田北、同家吉、同久保、同林及び目黒の各給料額については、当事者間において争いがない。これに加えて、〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。

1  彼告田北ら原告らが盗聴実行者らという者(以下「部下たる被告ら」ともいう。)は、昭和六〇年六月から昭和六一年一一月までの間、いずれも県警本部公安一課に所属(なお、昭和六一年一一月時点において、被告家吉及び同田北は警部補、同久保は巡査部長、同林は巡査であった。)して、警備情報等の収集の職務に従事していたが、同課の所掌事務の中には、日本共産党に関する情報収集活動も含まれており、右の者らは、その職務の一環として日本共産党関係の情報収集を担当していた。

2  警察組織の末端に位置する警察官が、独断で、右のような情報収集活動を行ったり、そのために建物を賃借するなどということはあり得ないところ、昭和六〇年六月から昭和六一年三月一三日まで県警本部公安一課長の地位にあり、部下たる被告らの上司であった被告山内は、職務として同課職員の勤務評定や出勤及び欠勤の査定をするほか、同課職員の行動に関する報告を受けていた。

3  一方、警察庁警備局は、警察庁の所掌事務のうち、警備警察に関する事務を所掌し、同局に設置された公安第一ないし三課、外事第一、二課に警備情報の収集、整理その他警備情報に関することを分掌させている(警察法二四条一項、警察庁組織令一四条、一五条の一ないし三、一七条の一、二)が、同局が発行又は編集した書籍には、日本共産党を警備情報収集活動の対象に位置付け、その活動を常時監視する必要性がある旨が述べられているほか、昭和五三年ないし昭和五七年にかけて、歴代の警察庁長官も日本共産党の動向に留意するようにとの訓示等をしており、警察庁警備局は、日本共産党に対する情報収集活動を日常的に行っていた。

4  ところで、昭和六二年六月から七月の間において、県警本部長であった被告中山が辞任し、県警本部警備部長であった被告吉原が総務庁青少年対策本部に転出したほか、警察庁警備局長の三島健二郎が辞任し、同局公安第一課長の小田垣祥一郎が警察共済組合に、同課理事官の堀貞行が科学警察研究所にそれぞれ転出するという人事異動が行われた。なお、これについて、警察庁警務局長から法務省刑事局長に対し、これら一連の人事は、県警本部の警察官が電気通信事業法違反として東京地方検察庁の取調べを受けるという遺憾な事態が生じたことを踏まえて、できるだけ早い機会に関係部門の人事を刷新し人心を一新するためのものであるという内容の文書が提出された。

また、被告山内の後任として昭和六一年三月一四日から昭和六二年三月一八日まで県警本部公安一課長の職にあった金田は、被告久保及び同林が起訴猶予処分となった同年八月四日、県警本部長から訓戒処分を受けた。

5  本件盗聴行為以外にも、過去において日本共産党の関係者が何者かにより電話を盗聴されるという被害を受けた事例が多数報告されているところ、昭和三二年ころ、補聴器等の開発製作業者が、警察庁からの依頼ということで、無線盗聴器として使用可能なワイヤレス送受信機を設計製作し、納品していたが、これと同一のものが、日本共産党関係者に対する過去の盗聴行為に使用されている。

6  本件マンション前に設置されている電柱上の端子函内には、局側に二〇〇回線・四〇〇本束、顧客側に二〇〇回線・四〇〇本束の電話回線があり、本件マンションに三〇回線・六〇本束の電話回線が引き込まれている。本件盗聴行為は、この中から、緒方宅の電話回線のケーブルを取り出し、これを本件マンションの電話回線に接続するという方法で行われており、緒方宅及び本件マンションヘの各電話回線の特定自体、電話局側の内部資料等がなければ困難であり、その接統にも相当の専門的知識経験が必要である。

7  部下たる被告らは、県警本部の警察官であるが、本件盗聴行為は、その所轄管内ではない、東京都町田市内において行われている。本件マンションは、被告田北の長男の田北昌彦名義で賃借され、連帯保証人を志田鉱八とするものであるところ、契約に当たり、両名の住民票が提出され、また、志田の住民票等の交付を受けるために海老名市役所に提出された住民票関係交付申請書には、被告久保の住所、氏名が記載されている。本件マンションの賃貸借契約書によれば、その賃借期間は、昭和六〇年七月一日から昭和六二年六月末日までの二年間であって、賃料は月額四万九〇〇〇円、敷金・礼金は各九万八〇〇〇円というものであった。本件マンションの賃料、公共料金等の支払いは、東京都民銀行の田北昌彦名義の普通預金口座を利用して行われていた。なお、本件盗聴行為の発覚後、本件マンション内には、テープレコーダ及びカセットテープのほか、冷蔵庫、扇風機等の日常生活をすることが十分可能な本件備品等が残されていた。

以上の認定に反する〔証拠略〕の結果は、前掲証拠に照らしてたやすく採用することができない。

8  (部下たる被告らの訴訟における対応等)

(一)  被告久保

被告久保は、別件民事訴訟において、本件マンションの賃貸借契約締結の際に利用された同被告名義の住民票関係交付申請書が自己の筆跡でないこと及び本件マンション内に遺留された指紋が同被告のものと一致しないことを反証しなかった。

(二)  被告林

被告林は、別件民事訴訟において、本件マンションの賃料及び光熱費等の公共料金の支払いに利用された東京都民銀行の預金口座開設等に関する各種書類の筆跡が自己のものでないことや、本件マンション内に遺留された指紋が同被告のものと一致しないことを反証しようとしなかった。

また、被告林は、別件民事訴訟の本人尋問において、自己の本件盗聴行為への関与を全面的に否定する旨の供述をしているが、その供述内容は、合理的な理由を示さない単純な否認を繰り返し、具体的な事柄については、個人的なことなので答えたくないという理由で供述を拒否するというものであり、自己が関与していないことを積極的に供述しようとしなかった。

同被告は、本件においても、被告本人尋問に二度にわたり出頭しなかった。

(三)  被告家吉

被告家吉は、別件民事訴訟における本人尋問への出頭を拒否し、その事案の解明に非協力的な態度を示したほか、本件当時、被告久保及び同林と同じ部署に勤務し、警備情報の収集活動に従事して、日本共産党関係の情報収集を担当していた。東京地方裁判所における右付審判請求の決定において、被告家吉は被告林らの盗聴行為になんらかの形で関与した疑いが強いが、その態様、程度等の詳細は不明であり、直接盗聴行為をしたり、あるいはこれについて同被告らと共謀したとするには証拠が不十分といわざるを得ないと判示された。また、東京第一検察審査会における議決でも不起訴相当とされた。

同被告は、本件における本人尋問に出頭したが、本件盗聴行為への関与を全面的に否定する供述をしたほか、本件盗聴行為が発覚した後、被告田北に依頼され、横浜銀行横浜市庁出張所の同被告名義の普通預金口座を解約する手続をした旨述べた。同被告の供述は、供述を拒否する部分が多く、右手続に至った経緯についての供述も、納得しがたいところがある。

(四)  被告田北

被告田北は、本件当時、被告久保及び同林と同一の部署に勤務し、警備情報の収集活動に従事して、日本共産党関係の情報収集を担当していたが、本件マンションの賃貸借契約の賃借人の名義は田北昌彦となっているところ、同人は同被告の長男であり、しかも、本件マンションの賃貸借契約書に押印されている「田北」という印影と、前記横浜銀行横浜市庁出張所の同被告名義の普通預金口座の届け出印の印影とがよく似ている。また、被告田北は、別件民事訴訟における本人尋問への出頭を拒否し、その事案の解明に非協力的な態度を示しているのみならず、本件においても、被告本人尋問に出頭しない。また、田北昌彦も、別件民事訴訟における証人尋問への出頭を拒否し、本件においても証人尋問に出頭したものの、父親である被告田北が犯人扱いされている裁判であるという理由で、宣誓することを拒否し、宣誓することなくした証言も、本件盗聴行為に関することのみならず、経歴、家族構成等一切の事柄について、具体的な供述をしなかった。

四  前記一1(一)ないし(三)の事実に加え、右三1ないし8の事実によれば、部下たる被告らのうち、被告久保、同林及び同田北は、県警本部公安一課所属の警察官として、本件盗聴行為に関与したものと認められる。

しかし、被告家吉及び目黒(甲二号証に抽象的な記載はあるが、その裏付けを欠く。)については、疑問は残るものの、盗聴行為に具体的に関与していたと断定するだけの証拠に欠けるといわざるを得ない。

なお、本件盗聴行為が組織的に行われた可能性が極めて強いことからすると、少なくとも、直接の上司である被告山内及び金田は、これを指揮命令をしたか、承認していたものと認めるのが相当である。しかし、その余の上司たる被告らについては、その具体的関与を認定するまでには至らない。

五  ところで、本件全証拠によっても、本件盗聴行為が具体的な犯罪行為等の捜査活動に必要であり、合法的なものであったことをうかがわせる事実は認められないから、本件盗聴行為が違法不当なものであることは明らかである。

しかしながら、右認定の盗聴実行者らがそれぞれ具体的にどのような行為をしたのかについては、証拠上、明確でなく、結局のところ、その日時、具体的内容等を特定することはできないといわざるを得ない。

確かに、本件において、被告久保及び同田北の本人尋問の実施に先立って送達された各尋問事項書には、本件盗聴行為について詳細に記載されており、これについて、右被告らがなんら答えようとしないことは、これを認めたものとすることができないわけではないが、そうだとしても、被告久保について、昭和六〇年六月四日に本件マンションの賃貸借契約を締結するのに必要な志田鉱八の住民票を海老名市役所に取りに行ったことが認められるに過ぎない。

原告らは、本件に関する付審判請求事件の各決定によれば、被告久保は、昭和六〇年六月四日、海老名市役所に志田鉱八の住民票を取りに行ったという事実が認定され、海老名市役所での窓口取扱時間と同久保の勤務時間からすれば、同久保が海老名市役所に行って住民票を取るには、県警本部に勤務する同久保の勤務時間に少なくとも三時間は食い込むことになり、また、右事件の東京地方裁判所の決定では、被告林は、当初から本件マンションに出入りしていたほか、少なくとも昭和六一年一一月一六日ころ、一七日ころ、二二日ころに滞在し、また同久保も同室に出入りし、少なくとも同月一九日ころには滞在していたとされており、右の「ころ」という表現をしているものの、右の各同日に滞在したと推認して差し支えなく、しかも、前記のとおり、本件マンションには、一年を通して泊まり込むことができる設備、備品が整っていたことからすれば、被告久保と同林が昭和六〇年六月四日から本件の発覚まで本件盗聴行為に交代で従事していたものとみることができると主張する。

確かに、右決定(甲二号証)には、原告らが主張するような表現がされており、それが裁判所における認定であるとしても、右決定には、その裏付けとなる証拠が摘示されておらず、本件にも証拠として提出されていないのであるから(甲一二四号証は、その裏付けとなる証拠とはいえない。)、右決定において、そのような認定がされているということだけから直ちに(ただし、被告久保については、前記の本人尋問の尋問事項書の記載があるが)、右各日時における両被告の行動を具体的に特定して認定することはできないといわざるを得ない。加えて、仮に、そのように事実が認められたとしても、その各日時が被告久保及び同林の勤務時間であったかどうかも明らかではない。

なお、原告らは、本件監査結果によれば、神奈川県の監査委員が監査したところ、被告らが昭和六〇年七月から昭和六一年一一月下旬まで出勤していることが確認されているから、右被告らが本件盗聴行為のため本件マンションに滞在したり、海老名市役所に行ったのは勤務時間内であることは明らかであるとする。しかし、右監査結果は、被告らが、本件盗聴行為がされたと主張された右期間、盗聴行為をしながら、その間の給与等の支給を受けたとの監査請求に対し、監査した結果、被告らはその間も正規に勤務していたと述べただけで、右期間中、被告らがまったく休みもなく勤務していたとまでするものではない。

また、原告らの主張する右期間中、右被告らが毎日、しかも、終始、本件盗聴行為に関与していたと認定することは困難である。

そして、違法な盗聴行為に従事することが、正規の勤務に当たらないとして給料の支払いの対象外とされ得るとしても、本件盗聴行為の中には、前述のように種々の行為が含まれている上、被告田北はむろん、同久保、同林についても、その行為が給料支給の対象外であるとして(甲八一号証、職員の給与に関する条例参照)、神奈川県による具体的な不法行為ないし不当利得請求の対象となるだけの特定性に欠けるといわざるを得ない。

したがって、原告らのこの点に関する主張は、理由がない。

六  次に、本件マンションの賃料・敷金等については、本件盗聴行為が県警本部公安一課によって組織的にされた可能性が強いことや、その金額などからすると、それがなんらかの公金により賄われていたものと推認されるが、その公金の支出時期、その根拠、支出者等はまったく明らかではないといわざるを得ない。原告らは、これらは盗聴実行者らが県警の会計課長を欺罔して支出させたものであるなどと主張するところ、盗聴行為そのものが組織的にされたものであるとすると、右金員が欺罔行為により得られたというよりも、組織的に予算科目を流用するなどして捻出された可能性があるが、それも明らかではなく、また、前記認定の事実によれば、本件盗聴行為について、警察庁警備局及び同局公安第一課等が関与した疑いがあることを考えると、本件マンションの賃料等の本件盗聴行為に必要な資金の出所が県警本部の予算によるものと断定することにも疑問が残る(なお、警察法三七条一項七号参照)。

結局、本件証拠上、右賃料等に充てられた資金がいつ、いかなる経緯、名目で、どこから支出されたかは明らかでないものといわざるを得ない。

更に、原告らは、本件マンションの内部に残された本件備品等についても、盗聴実行者らが詐欺又は横領をしたものと主張する。そして、この点についても、前記認定の事実によれば、本件備品等は、前記被告らが本件盗聴行為に利用したものと推認することができるものの、本件証拠上、原告らが主張するように管理担当者から騙取したものか、県警本部から持ち出し横領したものかも判然とせず、また、そもそも、県警の備品であるかどうか、その所有関係すら不明といわざるを得ない。

したがって、これらの点に関する原告らの主張は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がない。

なお、原告らは、共同不法行為の責任追及において各不法行為者がいつどのような手続で経費を騙取等し、あるいは費消したかを個別に明らかにする必要はなく、特に本件のように共同不法行為を行った被告らが事実を隠蔽しているときには、いずれかの者がその支出された時期に騙取等又は費消したことが認定できさえすれば、共同不法行為として損害賠償請求できると考えるべきであると主張する。

しかしながら、本件は、原告らが、神奈川県が被告らに対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得に基づく返還請求権を行使することを、違法に怠っているとして、それを代位行使することを求めているものであるから、原告らは、右損害賠償請求権又は不当利得返還請求権について具体的に主張、立証しなければならない。すなわち、原告らは、少なくとも、被告らのうち、誰が、いつ、いかなる内容の故意又は過失ある具体的行為により、神奈川県の公金を支出させて取得するなどし、いかなる不法行為責任を負うのか、また、同様に、不当に利得したのかについて、主張、立証すべきである。

ところが、前述のとおり、被告田北らが、いつからいつまで本件盗聴行為をしたのか、本件マンションの賃料等をいつ、どこから、いかにして出捐させて取得したのか等については、結局のところ、明らかではない。そうすると、本件においては、証拠上、神奈川県が被告らに対し、右の各請求権を有していると認めることができないから、原告らの右主張は理由がないといわざるを得ない(なお、付言すると、前記のとおり、住民が地方自治法二四二条の二第一項四号後段の怠る事実に係る相手方に対する請求をするには、当該地方公共団体が右請求権の行使を違法に怠っていることが必要である。そこで、当該地方公共団体が相手方に対して右請求権を有するかどうかについて、その請求権の根拠に関する法的見解が顕著に対立するなどしているため、明確であるとはいえないような場合、また、相手方の行為が抽象的には不法行為に該当するとしても、証拠方法等の関係で、その不法行為の具体的内容・損害額等を主張し立証することが極めて困難で、その結果、損害賠償請求権を行使することができないような場合には、当該地方公共団体がその請求権を行使しないことには十分理由があるといえるから、それが直ちに違法であるとはいえない。すなわち、このような場合には、当該地方公共団体が右請求権の行使を違法に怠っているとはいえないことになる。そして、本件においても、前記認定の事案の内容、被告らの応訴態度等からすると、そもそも、神奈川県が原告ら主張の損害賠償請求権等を行使しようとしても、その主張、立証ができるとは考えにくく、神奈川県が被告らに対する損害賠償請求権等の行使を違法に怠っているとはいえないのではないかと考える余地もあるところである。)。

七  よって、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

なお、原告益子純一は、平成三年一〇月二八日に死亡したので、本件訴訟のうち、同原告の請求に係る部分は、これにより終了した。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 今井弘晃)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!